オーケストラの曲を聴いていると、突然「コホッ、コホッ」とだれかが咳をしているような音が耳に入ってくることがあります。
オケ団員の誰かが風邪を引いちゃったのか、まーしょうがないよねーと思っていたらその音はファゴットの音だった、というのはよくある話です。(いえ私だけですね、きっと。)
これは、別にファゴットをからかっている訳ではありません。
咳といってもただの咳ではなく、とってもお上品な上流階級の「お咳」なんです。
コホッというよりコホンという高貴でジェントルマン風なイメージ。。
このような音の特色がファゴットの特徴の1つでもあります。
そしてオーケストラにおいて、低音楽器またはソロ楽器としてよい役割を果してくれるのです。
という訳で、今回はオーケストラのファゴットの役割についてご紹介しますね。
※ファゴットは英語・フランス語の読み方ではバス―ンと呼ばれ、この呼び名も知られていますが、この記事ではファゴットの呼び名で統一しますね。
オーケストラのファゴットの役割
ファゴットのオーケストラの役割は主につぎの2つです。
- 木管楽器の低音部担当。
- 味のあるソロ演奏。
では1つずつご紹介します。
音域が低い低音楽器
ファゴットというと、正直ちょっとマイナーな楽器。
まずオーケストラの中でファゴットの席がどの辺りか確認してみましょう。
上の画像の水色の所がファゴットの席です。
この画像ではファゴットが3名いますが、通常は2人の場合が多いですね。
オーボエのちょうど後ろに位置している場所になります。
ちなみにこの画像の水色の一番右端はコントラファゴットです。
コントラファゴットについては、後程説明しますね。
オーケストラの詳しい楽器配置についてお知りになりたい方はこちらを参考にしてくださいね。
ファゴットの音域は弦楽器のチェロの音域とほぼ同じで、木管楽器の中で1番音の低い楽器。
木管サウンドの低音部をしっかりと支えてくれます。
フルートやオーボエのように目立つタイプの音ではありませんが、とても穏やかで色んな楽器によくなじむような音色を持っています。
コホッコホッ・ポッポッという素朴な音色で、とても安心感のある低音を奏でます。
またオーボエと同じように、ファゴットも楽器の構成上チューニングをするために音程を調整するのがなかなか難しい楽器。
ですので、音程を上手くコントロールすることもファゴットを演奏する上でとても大切です。
音色的なイメージとしておじいさん風とか言われることもありますが(そういうタイトルがついた曲もあります)、女性プレイヤーもとても多い楽器ですよ。
とっても魅力的なソロも担当
音が低くて少しマイナーなイメージがある楽器だと、単に低音をブーブー吹いているだけなのかと思いきや、とっても魅力的なソロを演奏するのもファゴットの役割の1つ。
フルートやオーボエのような華やかさ・輝かしさに満ちたものとは少し違いますが、紳士のような落ち着きのある上品なソロを演奏します。
また、ファゴットは低音楽器ですが、音域が約3オクターブ程あり時には高めの音でソロを吹くこともあります。
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」の冒頭にあるファゴットの高音域のソロは有名ですよ。
楽しいファゴットの仲間
ファゴットは元々低音部を担当する楽器ですが、オーケストラで使われるファゴットには、もっと大きくてさらに低い音が出る「コントラファゴット」という楽器があります。
上の画像は、ファゴットとコントラファゴットの大きさを表したものです。
ファゴットもそこそこ大きい楽器ですが、コントラファゴットはさらに大きく重い楽器をです。
一見、縦の長さはあまり変わりませんが、巻かれている管全体の長さはファゴットが約2.6mなのに対して、コントラファゴットは約6mもあります。
画像では分かりにくいかも知れませんが、ファゴットの管も単純に1本の管ではなく巻かれている構造です。
コントラファゴットの音は、ファゴットよりさらに1オクターブ低い音が出ます。
この管の長~いコントラファゴットの音は、正直言って「音」ではなく「振動」。
コントラファゴットの音が鳴ると、あっゾウが来た、というくらいの振動が舞台上に響き渡ります。
それに、表面上だけでなく体の内部にまで振動が伝わってきます。
何というか、内臓にまで染み渡るような振動なんですよね。
それくらいのものを感じさせる音で、このコントラファゴットの音1本でオーケストラ全体を支えられるくらいのどっしり感があります。
コントラファゴットがオーケストラで使われる曲は限られ、出番もそれほど多くはないですが、ここぞという時に低音をガッツリ支えるときに使われます。
またコントラファゴットは、ファゴットの2番あるいは3番奏者が持ち替えて吹いたり、あるいはコントラファゴットのみを担当する専門奏者がいる場合もあります。
まとめ
今回は、オーケストラのファゴットの役割についてご紹介しました。
私のいとこが某オーケストラでファゴットを吹いています。
大学の卒業演奏会ではオーケストラとモーツァルトのファゴット協奏曲を演奏したくらい優秀な人。
彼女はもともと私と同じクラリネット吹きでしたが、大学入学後にファゴットに転向したんですよね。
クラリネットは演奏者の人口が多いから、人数が少ないファゴットの方が今後需要がある、と考えての転向だったそう。
彼女の選択は正解でしたね。
もちろん彼女自身が優秀な事もありますが、彼女が演奏活動している地域はファゴット吹きが少なく、あちこちから引っ張りだこで地元では有名なファゴット吹きになりました。
ちなみに、日本のファゴット吹きの人口はプロ・アマ合わせて1万5千人くらいなんだそうです(2023年12月現在)。
参考までに、日本のピアノ弾きはプロ・アマ合わせて約200万人・バイオリンは約10万人(これも2023年12月現在)、フルートは約50万人(これはちょっと不確かなデータ)。
そう考えると、ファゴット吹きの方ってとても少ないんです。
そう考えると、ファゴットを演奏している方ってとっても貴重です。
そして、このマイナーな楽器を自ら選択して演奏している方は何となく穏やか系の方が多いんですよね。
地味だけれどコツコツと忠実に自分の役割を果たすファゴットと、演奏している人の性質がよく合っているんだと思います。
いや、逆にそういう方がファゴットという楽器を選択しているのかもしれませんが。
派手さはなくても低音部の仕事をしっかり果たし、時には人をグッと引き付けるソロもこなすファゴットのオーケストラでの役割。
あなたも今度オーケストラの曲を聴くときに、ファゴットの演奏に耳を傾けてみてください。